イベント開催報告
◆2024.7.9 Keswick読書会
〈好きな本を紹介しあう形式〉
〈好きな本を紹介しあう形式〉
記念すべき第1回のKeswickイベント、読書会を開催しました。特にテーマは定めず、参加者さんが好きな本、いま他の人に特におすすめしたい本を何冊か選び、紹介しあいました。
【紹介された本】
◆ プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー(著),小野田和子(訳)
まずはSF好きの参加者さんが、電子書籍にて紹介。なんと、“人生ベストとも言える本”とのことで、激推しの一冊でした! SFが苦手な人でも読みやすく、意外な方向に話が転がり、どこに連れて行かれるかわからない楽しさがある。ただ、何を言ってもネタバレになるので、あらすじも喋れない。主催の春名も、次くらいに読もうかと思っている本でしたから、さらに読む意欲が高まりました。もうすぐ映画化されるため、それまでに読んでおいたほうがいいかもしれません。電子書籍だと安売りされることもあるので入手しやすいようです。
◆ 歌うように伝えたい/塩見三省
次に主宰者の春名が紹介。映画『アウトレイジ』での強面ヤクザ役が印象的だった俳優の塩見三省さん。彼が脳出血で倒れて半身不随になり、絶望の淵でなんとか動かせた右手で書き始めた文章をまとめたのが本書。前半は、リハビリで出会った他の患者さんや療法士さんに助けられた闘病記、後半は一転、俳優としての半生を振り返る内容となる。大杉連と昔からつるんでいたこと、思ったとおり岸部一徳はいい人だった、松岡茉優はすごい子だなあ、など素直な感想が書かれているのも面白い。そうしてあらためて振り返ると、過去の自分のおこないが今の自分を助けてくれている。ならば、未来の自分のために今をしっかり生きなければと思えてくる。どんな自己啓発本よりも生きる指針になる一冊。
◆ 最終結論「発酵食品」の奇跡/小泉武夫
店主のあでりーが紹介。発酵に関する専門家の著者が、世界各国の発酵食品を紹介する。大根などの野菜以外に、世界には魚や肉などの動物性食材を使った発酵食品が存在し、カニをどろどろになるまで潰して発酵させたものや、アザラシのお腹で小鳥を発酵させて作るキビヤックなど、強烈な発酵食品がたくさんある。和紙を味噌に練り込んで食べたり、戦国時代に使われた火縄銃の火薬など、食品以外でも発酵の技術は使われている。こうしたものを世界で食べ歩き、何でも美味しい美味しいと食べる著者が印象的。この本を読み、自分も「なまぐさごうこ」を作っている。まずはカタクチイワシで魚醤を作り、そこに大根を漬け込むもので、全部で5年ほどかかる。
◆ 教養としてのコーヒー/井崎英典
食品つながりで紹介。カフェを経営し、コーヒーの焙煎もおこなっている紹介者さん。紅茶はイギリス、コーヒーはアメリカというイメージは、ボストン茶会事件という史実に基づいているなど、歴史の観点からコーヒーが語られる。コーヒーの歴史について書かれた本はたくさんあるが、本書が一番読みやすい。著者はワールド・バリスタ・チャンピオンシップでアジア人初の世界チャンピオンとなり、現在はコーヒーコンサルタントとして国内外の企業のビジネスに関わっている。
◆ テスカトリポカ/佐藤究
一転してこちらは、どエンタメ小説。麻薬カルテルのはびこるメキシコで兄を殺された少女が、流れ着いた先の日本で息子のコシモを産む。名高い暴力団員だった父親の血を引き継いだコシモはやがて身長2メートルを超す大男となり、怪物性を目覚めさせていく。一方、麻薬抗争により壊滅させられた組織の幹部バルミロはインドネシアへと逃げ延び、そこで凄腕の心臓外科医・末永と出会う。末永はバルミロに、自らのオペ技術を生かした臓器売買ビジネスをもちかける。日本で誕生したこの闇ビジネスにコシモも参加するが、やがてバルミロとの対決を迎えることに――。書名の「テスカトリポカ」とは、アステカ文明の神様の名前。神に心臓を捧げるアステカの人身供犠と心臓移植がつながり、一級品のクライムサスペンスに仕上がっている。
◆ 発酵道/寺田啓佐
発酵つながりで紹介。著者は、千葉県で300年以上つづく酒蔵に婿入りしたものの、酒が売れなくなり、醸造所が立ち行かなくなる。追い打ちをかけるように著者は、腸が腐っていく病気にかかってしまう。病床で彼は、自然に逆らったことをしてきたから腸が“腐敗”した、これからは自然に積極的に関わる方法でやっていこうと決心する。添加物を使って安く安易に作っていた酒造りをやめ、昔ながらの自然酵母に任せた方法を採用することにより、経営もうまくいき、著者自身も健康を取り戻していった。腐敗と発酵という、似ているが真逆の現象に、日本酒造りと人生とがつながっていく様がおもしろい。
◆ ベートーベン捏造/かげはら史帆
誰もが認める大作曲家ベートーベン。耳の聞こえないベートーベンが使っていた筆談メモを基に、後年の研究者は作曲家像を構築していった。ところがそのメモに消されたり書き直された跡が見つかり、内容が捏造されていたことが1970年代に発覚する。”犯人”は秘書のシンドラー氏で、発覚当初、彼の名誉欲による行為だと思われていた。本書はシンドラーの心理に焦点を絞り、彼がベートーベンを過度に崇拝するあまり改ざんに及んだのではないかという、独自の新しい視点で読み解く。しかしそこにもまた、BL文化を経た著者のバイアスがかかっており、いろんな意味で楽しめる一冊。
◆ 飼い食い/内澤旬子
世界の屠畜事情をまとめたレポ『世界屠畜紀行』で有名な著者だが、いつしか自分でも屠畜をしてみたくなったという奇天烈な女性だ。千葉の田舎に物件を見つけ、小屋を建てて三匹の豚を飼い始めるのだが、初めての経験のためもちろんうまくいかない。本書はまず、苦労と苦闘の続く飼育奮戦記として滅法おもしろい。そうして手塩にかけて育てるうちにどうしても情が湧いてしまうが、最後には自分で殺して肉にすることが決まっている。読者もどんどん三匹の豚に感情移入していくため、最後にはどうなるのか、著者は本当に豚を殺してしまうのか、気が気ではなくなってくる。愛玩動物と家畜の違い、殺していい動物といけない動物に勝手に分けていいのかなど、突飛な内容ながらも考えさせられる奇書。
◆ 偶然の聖地/宮内悠介
大量に置かれた注釈が特徴という、非常に変わったSF小説。SFの世界観に浸りかけたかと思うと注釈が入るため、そのたび現実に引き戻されてしまう。主人公の怜威(れい)が行方不明となった祖父を探すため、地図になく検索でも見つからないイシュクト山を目指す旅に出る、といったあらすじだが、紹介者さんいわく、ストーリーはあまり頭に入ってこないとのこと。読みづらさはピカイチだが、そこが面白く、新しいともいえる。だから万人にお勧めできる本ではない。著者いわく、『なんとなくクリスタル/田中康夫』(多すぎる注釈で有名な80年代初頭のベストセラー)を目指して書いたらしい。
◆ 体の贈り物/レベッカ・ブラウン
一人の女性ヘルパーと利用者たちを描いた小説。自然食指向なのに甘いお菓子が大好きなリック。プライドが高いコニーは、無理をして食事をしてはトイレで吐き、それに気づかないふりをする主人公。ホスピスに予約を入れたエドは、入りたいけれど入ったら終わりという思いもあり、空きが出るたび尻込みしている。実際に入ってみると友だちもたくさんできて元気に過ごしていたが、やがて友達が一人ずつ死んでいく現実を前に落ち込んでいく。主人公が様々な人たちとふれあう中で、人間の哀しみや生きることの不可思議が浮かび上がる。20ページ足らずのエピソードが続くので読みやすく、その割に読み応えがあり、読後感はそれほど重たくない。
◆ ガザとは何か/岡真理
ガザ地区について、歴史の流れを丁寧に追った一冊。現在起きていることの真の意味合いも見えてくる。京大と早大で開かれた緊急講義を書き起こしたもので、大事なところは繰り返し出てくるので頭に入りやすい。ガザ関連でなにか一冊と言われれは本書。
※以上、紹介者の発言に、あらすじ等を主催者側で付加している部分もあります。
【まとめ】
初めてのイベント開催で、事前は緊張しながら迎えたのですが、参加者さんが積極的に発言してくださったこともあり、とても楽しい会となりました! コーヒーの本が紹介されれば各人のコーヒーの好みや習慣を披露し合ったり、日本酒発酵の話の時は好きなお酒の話に花が咲いたり、カフェ経営にまで話が及ぶことも。大いに盛り上がり、2時間があっという間でした。参加者さんには心から感謝しています。「ここ数年、こういうことをやってなかったので、思いが溜まっていたのかもしれません。楽しかったです」とのお言葉をいただき、僕もまったく同感で、本当に嬉しく思いました。Keswickの初イベント、第1回の読書会は、大成功に終わりました。どうもありがとうございました!