~ 本場のティータイムを、岡崎で ~
イベント開催報告
◆2024.9.8 Keswick美術会
 〈西洋絵画好きな方、大集合! 【第二弾】〉
第2回の美術会を開催しました。前回に引き続き、テーマは『西洋絵画好きな方、大集合!』ということで、3名の方にお集まりいただき、好きな絵や画家について語り合いました。
【絵画鑑賞全般について】
●まずは自己紹介と共に、参加者さんそれぞれの絵画体験、これまでにどう美術と関わってきたかの概略を披露しあいました。
 最初は副店長の春名から、若い頃は美術館に行くことはほとんどなかったけれど、結婚後に行ったレンブラント展で目覚め、以降は頻繁に絵を見に行くようになったことをお伝えしました。
●次に、旅行会に続いてご参加のKさん。「普段、まわりには体育会系の人が多く、絵について語り合える人がいないので、こうした機会はありがたいです。ルノワール、マチス、エル・グレコあたりが好きです。色彩がいいんですよね。」
●つづいて、初参加のTさんご夫妻の奥様。「二人とも絵が好きです。夫はゴーギャンが好きで、彼がモデルになったモームの『月と六ペンス』を3冊も持っています。夫は昔、絵を習って描いていたことがあって、ゴーギャン的な画風でした。あとはゴッホも好きですし、ジャン・ジャンセンやベルナール・ビュフェも好きです。
 私も絵が大好きで、ルノアール、意外なところでエゴン・シーレなども好きです。昔は私も、ガラス絵を習って描いたりしてました。ガラス絵は面白くて、ガラスの裏面から左右逆に描いていきます。もとはキリスト教のイコンを簡単に写すためのものでした。浜松の美術館に多く収蔵されています。あとは、文人画なども味があって面白いですね。」
●最後に、店長のあでりー。「絵は幼稚園くらいから10年ほど習っていましたが、実は絵を描くともらえる駄菓子が目的でした。その先生がデッサンより色を重視する人だったので、私も絵を見る時は色使いが気になります。夫と同様、レンブラント展に始まり、その直後に行ったロートレック展ではまりました。西洋絵画も好きですが、最近は日本画が好みです。3人あげるとすれば田渕俊夫、速水御舟、木島櫻谷。5人あげるとすれば追加で雪舟、渡辺省亭です。西洋絵画とのつながりで言えば、渡辺省亭が万博出展のためパリを訪れた際、エドガー・ドガと出会っています。省亭はドガの前でさらさらっと絵を描いてプレゼントし、ドガはそれを生涯大切に持っていたといいます。」
【好きな画家について詳しく】
●次に、好きな画家について、モニターで画像を見つつ詳しくお話をしていきました。まずは副店長の春名から、現在豊田市美術館で展覧会を開催中のエッシャーについて。だまし絵を描いた人というイメージが強いエッシャーですが、今回の展覧会を見て、だまし絵ばかりではなく何を描かせても巧くてオリジナリティがある、すごい画家だということがわかりました。
 初期の『天地創造二日目』や『バッタ』では、白と黒だけで立体感と陰影を表していて、緻密で美しく、技術の高さに驚かされます。『発展Ⅱ』では、三色のトカゲが隙間なく敷き詰められながら中心に向かって小さくなっていて、数学的に高度な知識と技術があったことがわかります。
『天地創造二日目』
『バッタ』
『発展Ⅱ』
『昼と夜』では、画面上部を飛ぶ白い鳥の隙間が次第に黒い鳥になり、その鳥が画面下部では畑になり町並みが広がっていきます。左右ほぼ対象の絵は左が昼、右が夜を表しています。『出会い』は、楽観を表す白い人と悲観を表す黒い人が、平面で組み合わされながら立体に変化していき、最後は手を握り合う、というもの。
『昼と夜』
『出会い』
他にも、球面に写る自分を描いた『写像球体を持つ手』、手が平面から立体的に浮かび上がる『描く手』にも驚かされますが、僕が好きなのは『爬虫類』。画面中央下部で平面的に組み合わされているワニが右下から立体的に飛び出てきて、画面の周縁を歩き、また左下で平面へと戻っていく。そのアイディアと表現の斬新さにしびれます。
『写像球体を持つ手』
『描く手』
『爬虫類』
そもそも絵が巧い人が、さらにいろんな発展を遂げていく、そのすべてが高レベルでかつ独創的。エッシャーの前にも後にも、似たような絵を描く画家は一人もいません。
 Tさんの息子さんがエッシャーが大好きだったとのことで、興味を持っていただきました。『なぜ息子がそこまで好きなのかわからなかったけれど、今日の話ですこしわかりました』とおっしゃって頂きました。
 豊田市の美術展はまだもう少しやっているので、おすすめです。我々二人は年間パスポートで2回行きました。(このイベントのあと、さらにもう一度訪れました。)
●次にKさんからは、ルノワールをご紹介いただきました。「定番ですが『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』が素晴らしいと思います。一年前オルセー美術館で見たことがあり、今朝、テレビでもやっていましたが、やはり本物は映像とは全く違いました。日差しと木漏れ日がとてもきれいです。」
『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』
春名「僕もこの絵は好きで、日本に来た時に見に行きました。ルノワールはこうしたクールな色調の絵はいいんですが、後年、赤を基調にしたふくよかな女性の絵を描くようになり、そっちは苦手ですね」
Kさん「わかります。ルノワールも途中から迷走しちゃったみたいですね。」
Tさん「売れなきゃいけないしね」
Kさん「他には、〈絵画史上最も有名な少女像)と呼ばれて有名な『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』も好きです。後ろを暗くしていることで、肌の色を活かしているところがいいですね」
『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』
Tさん「肌の色は、ルノワールは最高ですね。画家はいろいろと描いていくうちに、どうしても汚したくなるけれど、こうしてきれいなままで立体感があるのはすばらしいです」
Kさん「ですよね! ほんとに」
あでりー「生きている人間の肌を描いている感じがしますね。アングルとかまでいっちゃんと、絵の中の人、理想の人であって現実ではない人って気がします。私はほかに、『ピアノに寄る少女たち』も好きです」
『ピアノに寄る少女たち』
Kさん「いいですよねー。わかります。日常の一コマという感じで。」
春名「ルノワールは、幸せで平和な感じがいいですね」
Tさんからはゴッホをご紹介いただきました。「病院の裏庭が好きなんですよ。『サン=レミの療養院の庭』。ゴッホにしてはすごくおとなしい絵だけれど、緑がきれいで、心が静かになります」
『サン=レミの療養院の庭』
あでりー「ゴッホといえば、来年、大ゴッホ展が兵庫で開かれます。年をまたいで前期後期に分けて開催されます。有名な『夜のカフェテラス』も来ますね」
Tさん「『夜のカフェテラス』は実物を見ました」
春名「いいですねー。僕は、『アルルの跳ね橋』も好きです」
『夜のカフェテラス』
『アルルの跳ね橋』
Tさん「西洋画って、筆づかいがけっこう荒いじゃないですか。それでも離れるとちゃんときれいに見える。あの表現力は、日本の画家とは違いますね。」
春名「僕はモネの『印象・日の出』を初めて見たとき、近くで見ると筆でひょいひょいひょいと描いてあるだけなのに、離れて見ると水の透明感がきれいに表現されていて、なんでこんなことができるのかと驚きました。」
『印象・日の出』
あでりー「ゴッホは、いくつかあるアーモンドの木の絵もいいですね。アーモンドは同じバラ科の植物なので、花が桜にそっくりなんです。ソメイヨシノよりもピンクが濃いくらい。『花咲くアーモンドの木の枝』は、浮世絵をイメージしている感じですね。もうちょっと引いた画角の絵もあります」
『花咲くアーモンドの木の枝』
Tさん「ゴッホは激しい絵もいいんですが、このアーモンドの絵とかさっきの療養院の絵を見ると、この人もこういう一面があったかと思ってほっとします。」
春名「ゴッホも最初はジャガイモを食べる人とか素朴な絵を描いていて、その後パリに出てきてから変わってきて、ミレーの絵を模写した時期もありました」
●つづいて、店長のあでりー。「前回の美術会で女性の美術家の話がなかなか出てこないと思ったので、今回、メアリー・カサットをご紹介します。ベルト・モリゾ達と同じ印象派の人で、アメリカからフランスに留学をして学び、アメリカに印象派を持ち込んだ功績があります。愛にあふれる母子像など、温かい絵をたくさん描きました。作品点数が少ないので、展覧会でもだいたい一点二点ほどしか見られません。マネと同じ時代で、黒の使い方も巧いですね。数年前のカサット展では、メインビジュアルとして『眠たい子どもを沐浴させる母親』が紹介されていました。」
『眠たい子どもを沐浴させる母親』
Tさん「かわいい!」
Kさん「女性画家らしい描き方ですね」
あでりー「おすまししている女の子ではなく、日常の一部として描かれています。」
春名「途中の顔、みたいなのがいいですね。ドガに習っていたので描き方は印象派なんですね。独特だから、好きな人はすごく好きだと思います。」
あでりー「カサット展をまたやってくれないかなと思ってます。」
Tさん「個性的な女性画家といえば、映画にもなったメキシコのフリーダ・カーロがいますね。」
あでりー「あの人も独特ですね。バス事故で重症を負って、その時に自画像を描いたり。名古屋市美術館にも絵がありますね」
Tさん「彼女の映画も見たことがあります」
『いばらの首飾りとハチドリの自画像/フリーダ・カーロ』
あでりー「好きな画家でもう一人、エドワード・ホッパーもご紹介したいと思います。いちばん有名なのは、『ナイト・ホークス』という作品。アメリカの街角という感じで、ぷらっと歩いたらここに行けそうな絵です。」
春名「醒めた感じで人の営みを見つめるような絵ですよね。本の表紙になることも多いです。」
『ナイト・ホークス』
あでりー「ホッパーと同じくアメリカの作家で、アンドリュー・ワイエスも好きです」
Tさん「ワイエスは私の友達が大好きで、私も好きです。さっきから頭の中でワイエスの名前がなかなか出てこなかったので、思い出せてよかったです。」
あでりー「15年ほど前、名古屋でワイエス展が開催されたのですが、その期間中にワイエスが亡くなり、追悼文が飾られていました。『クリスティーナの世界』がいちばん有名ですね。」
『クリスティーナの世界』
春名「僕は、絵とかほとんど興味がなかった若い頃にやっていたワイエス展に行って、すごく惹かれました。田舎の小屋の絵とか、いいですね。」
あでりー「こんど京都でワイエス展をやりますので、行けたら行きたいです。」
●最後に春名が、時間があれば話そうと思っていたフィリッポ・リッピの画集を少しだけお見せすると、Kさんが興味を示してくださいました。
Kさん(表紙の『聖母子と二人の天使』をご覧になり、)「あ、リッピのこの絵、好きです。いいですよね、この女の人の横顔が。この温かい感じの女性が大好きです」
『聖母子と二人の天使』
春名「リッピは、イタリアのウフィツィ美術館でたくさん見たんですけど、実物は本当に良かったです。」
あでりー「こういういい絵を描く人なのに、人間的にはちょっと……(笑)」
春名「そうそう。リッピはカトリックの修道士だったんですが、修道女を好きになって駆け落ちしちゃって、その女性が絵のモデルなんです。つまり女性好きだから、女性の絵はむちゃくちゃ巧いんですよね。いっぽう子供の絵はどうでもいいというか、あまり巧くないです(笑)。」
Kさん「女性の絵といえば、ミュシャもいいですよね」
春名「そうですね。ミュシャも多彩な画家で、イラストも巧ければ普通の素描も巧い。以前、東京で開かれたミュシャ展で見た『スラブ叙事詩』には感動しました。それまではデザインとイラストの人というイメージだったのが、スラブの自分のルーツを込めた魂の絵でした。」
【美術に関するよもやま話】
Kさんから、旅行会でも少しお伺いしましたが、ご自身で描かれた絵をルーブル美術館の地下で展示されていたお話(!)をお伺いしました。合間に現場を抜けて、ルーブルのいろんな展示を見ることができたそうです。
●昨年のKさんと同様、25年前くらいにオルセーに行かれたTさん。「わざわざ夕食をキャンセルして地下鉄に乗って出かけたんですが、ちょうどその日は早仕舞いの予定だったらしく、奥から順番にどんどん閉まっていき、追われて走りながらの鑑賞になったのでもったいなかった。だからルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』は見ていません。
 それからフィレンツェのウフィツィ美術館に行った時も、混んでいるからこの部屋はやめよう、はい次、はい次、という感じで走りながら見てました。ああ、もうちょっと見たいのに、と思ってました」
春名「僕らはウフィツィに行ったとき、三日間、通いました」
Tさん「いいですねー。それくらいのつもりで行かないといけませんね」
Kさんから、ご自身で描かれた水彩色鉛筆画の本をいただきました。昨年、フランスを訪れた際に描かれたたくさんの絵が収められていて、我々の好きな画風でもあり、非常に見ごたえがありました。絵の描き方として、その場で写真を撮り、それを見ながら後で描くという方法もお伺いしました。ただ、この時は撮影した画像ファイルを破損してしまい、ネットの画像を見ながら描かれたそうです。
Tさんから、三十歳くらいの頃に描かれた、シクラメンの水彩画の画像を見せていただきました。写真のような緻密な作品で、驚かされました。
Tさん「花はいまひとつ描けてないけれど、葉っぱは何度も塗り重ねて頑張って描きました」
Tさんからは、ガラス絵の写真も見せていただきました。「ガラスにまず炭で描いて半年ほど放っておくと定着するので、その後、水彩絵の具を乗せて描いていきます。ガラスにじかに絵の具がついていると、透明感が増してきれいに見えるんです。根気と運がいりますね。」
あでりーも、メニューの挿絵や当店のマスコットキャラクターであるオウギアイサなど、いくつか描いているので、ご紹介しました。かなり昔ですが、横浜にある野毛山動物園の絵のコンテストで優勝し、一年間、動物園のマスコットキャラクターとしてその絵がパンフレット等で使われたこともあります。
【まとめ】
第2回の美術会も、和やかながら時には熱く語り合う、素晴らしい会となりました。絵を好きな人が集まって思い切り語り合う機会は、店主二人もなかなかないので、本当に貴重な場になっていると思います。参加者の皆様には、いつも本当に感謝しています。次回の美術会では、一転、日本画をテーマに語り合う予定です。たくさんのご参加を、心よりお待ちしています!