~ 本場のティータイムを、岡崎で ~
イベント開催報告
◆2025.4.21 Keswick読書会
 〈好きな漫画を紹介し合いましょう〉
今回は初めて、漫画を紹介しあう読書会を開催しました。4名の方にご参加いただき、にぎやかに楽しくお話をしました。じっくり詳細に中身を語るというより、次から次へとタイトルが飛び交い、たくさんの作品が紹介されました。
【紹介された漫画一覧】
・無能の人/つげ義春
・ゆんぼくん/西原理恵子
・この世界の片隅に/こうの史代
・マハラジャ日和/ユズキカズ
・真夜中の水戸黄門/しりあがり寿
・マンガでわかる万葉集/上野誠
・セシルの女王/こざき亜衣
・あおによし、それもよし/石川ローズ
・北斎漫画/葛飾北斎
・チェーザレ/惣領冬実
・アルティジャーニ/ヤマザキマリ
・どうぞごじゆうに~クミコの発酵暮らし~/いのうえさきこ
・船を建てる/鈴木志保
・白エリと青エリ/関根美有
・鉄子の旅/菊池直恵
・山賊ダイアリー/岡本健太郎
・あとかたの街/おざわゆき
・ブラック・ジャック創作秘話/ 吉本浩二・宮崎克
・藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>/藤子・F・不二雄
・日本人の知らない日本語/蛇蔵&海野凪子
・戦闘(『おろち』第5巻) /楳図かずお
・NBA STORY/高岩ヨシヒロ
・キノの旅/郷,時雨沢恵一,黒星紅白
【詳細な内容】
※以下は、参加者さんの発言そのものではなく、要約・編集したものを会話風にまとめたものです。あらすじ等を主催者側で付加している部分もあります。
◆ 無能の人/つげ義春
イベント常連参加のNMさん「これは昭和40年代か50年代の、最初に出た頃の本ですね」
店長・あでりー「かなり古い作品ですね。NMさんが持ってこられる漫画という時点で、すごく興味をそそられます」
副店長・春名「漫画は、表紙を見るだけでも楽しいですね」
NMさん「僕の親戚が小さな工場を経営していて、工場の横には水車が回っていました。小屋の中に入ると漫画がいっぱい積んであって、僕はまだ学校に入る前でしたが、小屋の中にこもって一日じゅう漫画を読んでいたこともありました。
 小学校に上がる頃になると、当時は駅の近くに必ず古本屋があり、一人で古本屋へ行くようになりました。当時の小遣いが5円で、古本屋で漫画が1冊5円で買えたんです。貸本屋もあって、漫画ばかり読んでいました。そこでガロを読むようになって、このつげ義春も載っていました。彼は戦争漫画も描いていて、ちょっとクセになるような作風でしたね」
春名「人間のどうしようもないところを描いた作品が多い印象です」
◆ ゆんぼくん/西原理恵子
NMさん「西原理恵子は、いろんなタイプの作品を描いてる人ですが、これは初期の作品ですね」
春名「新聞漫画とかも描いていますね。日常系の作品という感じでしょうか」
◆ この世界の片隅に/こうの史代
NMさん「これは、一緒に仕事をしていた女性ライターに勧められて読みました。広島で原爆を体験した方がモデルになっています。広島というと、どうしても原爆のイメージで捉えがちなんですが、本作は、ごく普通の人の、日々の暮らしに密着した描写がすごく丁寧なんです。この著者の本は、20~30冊くらい買いました」
◆ マハラジャ日和/ユズキカズ
春名「これはいつくらいの漫画ですか?」
NMさん「あまり覚えていないんですが、このタッチからするとガロの時代っぽいですね」
春名「たしかにつげ義春っぽい雰囲気で、ちょっと猥雑な感じもありますね」
◆ 真夜中の水戸黄門/しりあがり寿
NMさん「僕が意外に好きなのは、このしりあがり寿ですね。いろんな作品があるんですが、この著者の特徴は、物語の軸がなくて、『なんだこれ? どこへ行くんだ?』という感覚のまま続いていくところです。絵のタッチも面白いですね」 」
◆ マンガでわかる万葉集/上野誠
イベント常連参加のTさん「これは最後に買った漫画なんですが、すこし字が難しすぎて、ルビを振ってほしい字がたくさんありました。いろんな句について、漫画で説明されています」
あでりー「(中身を見ながら)『くしゃみが出る、それは恋人が来る合図』とか、面白いですね! こういう歌が万葉集にあったんですね」
Tさん「昔の人って、夢に出てきたから相手が自分を好きなんだとか、勝手な解釈をするんですよね。そういう発想がすごく面白いです」
NMさん「ただの解釈だけじゃなくて、その世界の中に自分が入っていける感じがしますね」
◆ セシルの女王/こざき亜衣
イベント初参加のNRさん「イギリスが舞台の漫画です。ヘンリー8世統治の時代、エリザベス女王が生まれてからの物語で、従者の目線で描かれているんです。ヘンリー8世の歴代の奥さんの話とか、そのあたりの経緯もちゃんと描かれてます」
春名「あの悪行ざんまいの、ヘンリー8世ですね」
NRさん「そうです。王族の家系の流れもわかります。そして『セシルの女王』というキャラクターも出てきて、ヘンリー8世の残虐な面を別の視点で描いていきます」
あでりー「これを読むと、イギリスの黒歴史が見えてきそうですね」
NRさん「プロテスタントはなぜ生まれたのか、なぜ宗教が変わったのか、みたいなこともよくわかります。歴史は基本的に“勝者の歴史”で、勝った側の視点でしか語られないから、それとは違う見方ができるのもこの作品の魅力です」
Tさん「うちは息子ばかりで、こういう女の子系の漫画はぜんぜん読んでいないんです」
◆ あおによし、それもよし/石川ローズ
NRさん「現代人のミニマリストが奈良時代にタイムスリップする話です。現代には物が溢れていますが、奈良時代には何もなくて、それがすごく心地よく感じるという内容です。現代と比較して何もないから、逆に掃除しやすい、というような視点が面白いです」
◆ 北斎漫画/葛飾北斎
Tさん「これは、紹介するというほど読んでいないんです。買ってそのまま積んである状態で(笑)」
春名「でも、この本をよく買いましたね」
Tさん「小布施の北斎館に行ったときに見かけて、『あ、これいいな』と思って、勢いで買っちゃったんですよ。人間の体の動かし方とかが当時の様子で細かく描かれていて、すごく面白かったです。そのときは感激して買ったんですけど、あまりに量が多すぎて、忙しい時期だったのでとりあえず部屋に置いたまま、忘れてました」
春名「たまにパラパラ見るくらいの感じでいいんじゃないでしょうか。最初から最後まで通して読む本ではないかもしれません」
Tさん「百科事典みたいな感じですね」
あでりー「漫画としては、たぶん日本で一番古いですよね。1700何年くらいから現在まで300年近く、北斎が亡くなった後もずっと継続して発行されています。本を出した経緯が面白くて、北斎が名古屋に来たとき、近辺の人たちに『こうやって描くんだよ」という感じで簡単に描いた絵が300枚くらいあって、それをそのまま放っておくのはもったいないということで、名古屋の出版社がまとめて本にしたのが最初なんです」
Tさん「文化がすごく詰まっていますよね」
あでりー「魚を下から見た絵とか、見ているだけで面白いです。一番有名なのが雀踊りで、当時の踊り方を図解したものが描いてあって、それを見ると本当に踊れるんじゃないかと思います」
◆ チェーザレ/惣領冬実
あでりー「スペイン出身で、ルネサンスの時代にイタリアで成り上がっていったチェーザレ・ボルジアという実在の人物を描いた作品です。この人は極悪人としても知られていますが、それとはまた違う解釈があるんじゃないかということで、著者が自分の視点と、いろんな文献や知識人の話をもとに描きました。チェーザレは30代で毒殺されて亡くなりますが、その生涯が描かれています。ダ・ヴィンチなどのルネサンスの巨匠たちや、教皇との関わりなど、読み応えがたっぷりです。
 絵もものすごく綺麗で、システィーナ礼拝堂とか、有名な絵画や当時の街並み、文化も紹介されます。外国語にも翻訳されていて、イタリアでも出版されています。ある家庭では、娘さんが読んでたらお父さんが『こんな漫画はダメだ』と怒ったんですけど、そのお父さんがこっそり読んでみたら『これは素晴らしい!』と言い出したというエピソードもあるくらいです。それくらい歴史的にも忠実で、絵も丁寧で、本当に美しい。私はこれを読んでメディチ家に興味を持って、別の本も読みました」
春名「ルネサンスの時代の話なので、絵が好きならそれだけでも楽しめると思います」
Tさん「ヤマザキマリさんの作品みたいな感じですね」
◆ アルティジャーニ/ヤマザキマリ
あでりー「ルネサンスつながりで紹介したいのが本作です。ルネサンス時代の巨匠たちをちょっとアレンジして描いたオールカラーの作品です。著者はフィレンツェの美術学校を卒業された方で、絵もすごく綺麗ですし、歴史的な背景もちゃんと学ばれています。だから信頼できる内容で、とても勉強になります。有名なダ・ヴィンチ以外にも、ダ・ヴィンチが影響を受けた人や、彼が参考にしたくて訪ねた人物なども描かれています。去年、高浜のかわら美術館でヤマザキマリ展があって、原画を見て感動して、その後この作品を買ったんです」
NMさん「ヤマザキマリさんは、もう20~30年くらい前から活躍されてますね」
あでりー「著者のエピソードも面白いんです。中学の時だったか、お母さんが音楽家か何かで、海外で公演する予定だったんだけど都合で行けなくなって、『あんた休みだから代わりに行ってきて』と言われて、一人で外国に行ったんです。全然知らない国で困っていたところ、イタリアの高齢の男性が助けてくれて、そのご縁でその人の孫と結婚されたそうです」
◆ どうぞごじゆうに~クミコの発酵暮らし~/いのうえさきこ
NRさん「これは、ぬか漬けの話です。これを読んで私もぬか漬けをいろいろやってみました」
春名「主人公がぬか漬けを作るんですか?」
NRさん「そうです。ぬか漬けをいろいろ試して、こういう場合にはこうした方がいいよという感じで漫画の中で描かれています。たとえばカリフラワーとか、いろんな漬物が出てきます」
◆ 船を建てる/鈴木志保
春名「僕は漫画をそんなにたくさん読むわけじゃないんですけど、一番好きな漫画はもうずっとこれなんですよ。少女漫画雑誌『ぶ~け』に連載された作品です。登場するのはほぼ全員アシカで、主人公二人のうち、白いアシカの名前が煙草(たばこ)、黒いアシカの名前がコーヒーといいます。この二匹が、一話読み切りの連載形式でいろんな人情話を繰り広げるんです。そして、実はこの世界にはある秘密があって、なぜ彼らアシカたちが生きているのかという理由が、最後の最後に明かされるんですよ。それがめちゃくちゃ感動的なんです。一話完結としても楽しめるし、全体を読むと徐々に世界の謎が解き明かされていく、という構成です。わりと純文学的な漫画ですね。ただ、いろんな人におすすめしたくて貸すんですけど、みんな、『よくわかりませんでした』と返すんです(笑)」
あでりー「私も読みましたが、よくわかりませんでした」
Tさん「私たちの世代には漫画に対する偏見みたいなものがあって、子供が読んでいると、親から『漫画ばっかり読んで』と言われたりしましたね。だからあんまり読んでこなかったけど、昔、お正月になると、おばあちゃんが少女漫画雑誌の『りぼん』を買ってくれて、パラパラっと一回だけ読んだんですよ。私は少女漫画系のキラキラしたのはちょっと苦手で、どちらかというと少年漫画のほうが好きでした」
◆ 白エリと青エリ/関根美有
春名「ほぼ無名に近い漫画家さんなんですけど、今回はなるべく知られていない本を紹介しようと思って持ってきました。主人公の女子高生エリが、『仕事って何だろう?』とずっと考えているんです。その子の家が大家族で、両親、祖父、兄姉など、それぞれがいろんな仕事をしています。普通のサラリーマンもいれば、おじいちゃんは自営業で小物を作っていたり、ミュージシャンを目指しているフリーターもいます。エリが、『働くってなんだろう?』と誰かに聞くとそれぞれなりの答えが返ってきて、少しずつ視野が広がっていく、という内容です。
 後半はまたぜんぜん違う世界の短編になって、そちらもすごく良いんです。たとえば、豚の女の子が主人公の話があって、ある日、人間の女の子が来て『ねえねえ、あなたのお仕事は何?』と豚さんに聞くんですよ。豚さんが、『トンカツになることかしら?』と答えると、女の子は、『それは仕事じゃないわ。運命よ』と返すんです。なんだか哲学的なやりとりなんでよ。
 他にも、猿が主人公の『飛ぶな猿』っていう話があって、これが最高なんです。店長も読みましたよね」
あでりー「すごく良かったです」
春名「10ページぐらいの短編なんですけど、猿の世界で、初めて空を飛ぶことに成功した猿の話なんです。でもその傍らで、お母さん猿はずっと無言で洗濯をしてるんです。ゴシゴシゴシゴシって。最後の方でその子猿が、『お母さん、命は大切だと言わないでいてくれて、ありがとうございました』と言うんです。すごいですよね。『命は大切だ』なんて言われたら、怖くて何もできなくなっちゃう。でもお母さんは何も言わないでいてくれたから、自分は挑戦できたし、成功もできた。どうしてお母さんがそう言わずにいられたのかという理由が、最後に明かされるんです。めちゃくちゃいい話です」
◆ 鉄子の旅/菊池直恵
NRさん「旅の話なんですが、登場する男性は実在の人物で、本当にあった話をもとに取材レポートみたいな感じで描かれています。著者は鉄道の人じゃないんですが、その男性に同行して体験したことを漫画にしています」
◆ 山賊ダイアリー/岡本健太郎
NRさん「これは猟師の話です」
あでりー「面白そう! 絵もきれいですね」
春名「猟師の知り合いがいたら、鹿とか山鳥とか、ジビエの肉を食べられそうですね」
◆ あとかたの街/おざわゆき
NRさん「これは名古屋の大空襲の話です。この著者は、父親のシベリア抑留の体験を元にした漫画も描かれています」
あでりー「私は全然知らなかったけど、最近は深いテーマを描く漫画家が増えてきた気がします」
Tさん「最近はドラマも原作はほとんど漫画ってことが多いみたいですね」
春名「映画もそうですね」
Tさん「漫画家さんたちは頑張っていますね。生活は大変でしょうけど」
NMさん「ちょっと売れている間に一気に描いてサッと出すっていう感じで、回転が早いです」
春名「いろんな分野でそういう流れがありますね」
NMさん「今はWebでも発表できるから、そこから出てくる人もいます」
◆ ブラック・ジャック創作秘話/ 吉本浩二・宮崎克
あでりー「手塚治虫の実話を漫画にしたものです」
NMさん「手塚さんは海外にいても、『○ページの○コマ目、コマ割りはこうで…』と、電話で全部指示を出すんです」
春名「僕もこれは読みました。海外出張で手塚先生に同行していたのが石ノ森章太郎で、電話している手塚先生の後ろで、その会話を聞いてたんですよね。『この漫画の○巻の○ページの○コマ目』と言ってるのを聞いた石ノ森先生は、『きっと資料の本をたくさん持ち歩いてるんだろうな』って思って近づいてみたら、何にも持ってない。全部、手塚先生の頭の中に入ってるんですね」
あでりー「ほんとに、すごいですね」
◆ 藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>/藤子・F・不二雄
あでりー「1970~80年頃に描かれた短編を集めたものですが、今の世界を予言したような内容です。私が一番好きなのは、『ミノタウロスの皿』という話。別の惑星で牛が世界を支配していて、人間は牛に飼われています。毎年一度、一番おいしい肉のコンテストがあって、選ばれた人間はお祭りで食べられてしまうんですが、それが最大の名誉なんです。殺されるよりも栄誉を失う方が怖いという価値観が描かれていて、小学生の時に読んですごい衝撃でした」
春名「藤子・F・不二雄の短編はいろんな形で出版されていますが、この全集が一番まとまっていますね」
あでりー「このまえ全部読み直したら、2~3話以外は、ほぼ全部覚えていました」
春名「絵は親しみやすいんですが、内容はすごく重かったり、ちょっとエロティックだったり、いろんなテーマやアイデアがあって、人間ドラマもしっかり描かれています」
NMさん「本当に今は、漫画ってひとつのジャンルにくくれないですね」
春名「いろんな可能性がありますからね。描く人は大変でしょうけど」
あでりー「以前読んだ漫画で仏像の話があって、この仏像はこういう背景でとか、勉強にもなりました」
Tさん「今日で、漫画に対する考え方が変わりました(笑)」
あでりー「津軽三味線の漫画を読んで興味を持って、ちょっと聴いてみたり、旅先で聴きに行ったりしたこともありました」
Tさん「全然知らない世界でも、漫画だと入りやすいから、導入として最適ですね」
◆ 日本人の知らない日本語/蛇蔵&海野凪子
Tさん「日本語学校の先生が、外国人生徒の言動に苦労する内容です」
あでりー「私も読んで、面白かったです。覚えているのが、『前向き』のエピソードです。ある生徒が『日本は優しい国ですね』と言うので、理由を尋ねると、『駐車場まで優しく慰めてくれますから。前向きに、って』と答えるという(笑)」
◆戦闘(『おろち』第5巻) /楳図かずお
春名「僕は昔から、いわゆる男の子漫画を全然読まなくて、ギャグ漫画と恐怖漫画ばかり読んでいました。恐怖漫画だと、つのだじろうや古賀新一も好きでしたが、やはり一番は楳図かずおなんです。楳図さんの作品は、お化けが出てきてギャーみたいな話もあるんですけど、人間ドラマをすごく描いてくれる作家なので、今でも読み応え十分なんです。
 この『おろち』という作品は六巻まで出ていて、おろちという名の少女が狂言回しになっていろんな話を紹介していく内容です。なかでもいちばん好きなのが5巻の『戦闘』という話。小学校の先生と息子の小学生がいて、先生は正しい人でみんなに尊敬されていて、当然息子も尊敬しています。ある日、少年のもとに一人の焼夷軍人が現れて、戦争中に父親が人間の肉を食べた話を聞かせるんです。その日から少年は父親を拒絶し始めるんですが、中盤からは場面が昔の戦場に変わり、お父さんの行動が描かれます。戦争のどうしようもない状況の中で、飢え死にするかどうかという究極の選択に迫られたら、人の肉を食うこともあり得る、そういう父親と子供が最終的にどう理解できるのかできないのかという話です。僕は小学生の時これを読んで、すごい話だなと思って、それから何回読んだか分からないくらいです」
NMさん「昔、シベリア抑留時代の話をガイドさんから聞いたことがあって、とにかく腹が減って、何でもいいから食いたい、それしか考えられないんだそうです。だから、戦友が一緒にいたら、こいつより先に死にたくない、だって俺が先に死んだらこいつに俺が食われる、そういう世界なんだと。その人は、『俺も一度食っておけばよかった。一度、体験しておきたかった』と言うんです。そういう感覚になってしまうんでしょうね」
春名「極限状態だったら、今の平和な世の中で考えることと、全然違うでしょうね。そういえば、さっきの『藤子・F・不二雄SF短編』の中に、「カンビュセスの籤(くじ)」という話がありましたね。砂漠かどこかで、10人くらいが生き延びるためにどうにかしなきゃいけなくて、くじを引いて負けた人の肉をみんなで食べるという内容でした」
あでりー「ありましたね。未来の話だから、加工されてキューブ状の食べ物になっていて、それを1日に何個かずつ食べていく。それで、この人数なら何日生きられるという計算をしてまたくじを引く、というのを繰り返すんですね」
春名「結局、SFの世界の話なんだけど、人間とは何かという本質をすごく追求している話だから、やっぱり面白いなと思うんですよね」
◆ NBA STORY/高岩ヨシヒロ
あでりー「80年代から90年代のNBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)が大好きなんですけど、その時代に活躍した人の話が盛り込まれた漫画です。実際の話で、歴史的に有名な人が4~5人くらいピックアップされています。中でも私が好きだったのがチャールズ・バークレーで、一時期、部屋一面バークレーだったくらいです。NBAの歴史を知るきっかけにもなったし、黒人差別というテーマがすごくやんわりと書いてあるんですが、それでもひどいなと思うところがたくさんありました。そういう、アメリカが抱える問題が垣間見えるところもあって、興味深かったです」
NMさん「絵がすごくリアルですね。今は、例えば黒人の横顔をリアルに描くのもなかなかできないです。どこからクレームが来るか分からないですから」
NRさん「サイボーグ009がアニメになった時、黒人の008は70年代版では原作通りでしたが、2000年代版では大きく設定を変えられていました。黒人奴隷制が背景のキャラだから、クレームが来るんじゃないかという理由で」
春名「現在では、むしろ登場人物をわざと黒人にしたりアジア系にしたり、そういう配慮がありますね。ハリウッド映画でも、そういう傾向は強くなっています」
NMさん「僕らの子供の頃は、人類の発達史みたいな図があって、まずオランウータンがいて、その次に人間の先祖が出てきて、次が黒人、その次がアジア人、最後が白人だったんです。それを見て、『白人が一番上なんだ』と思わされていました」
あでりー「そういうことを刷り込まれていたんですね」
NMさん「昔はそういう教育が当たり前でしたが、今はもう絶対に使えません」
春名「アフリカは旧大陸と呼ばれていて、アメリカは新大陸でしたもんね」
NRさん「新大陸発見というのも、別に発見でもなんでもないですよね」
NMさん「白人が見つけてあげたという理屈ですね」
春名「さっきのヘンリー8世の話もそうですけど、イギリスなんて侵略の歴史ばかりですよね。本当におぞましいです。実際、前に来たお客さんで、『私、イギリス嫌いです』という人もいました」
あでりー「紅茶の話でもそうで、今はインドが有名だけど、あれもイギリス人が中国から勝手に苗を持ってきたものを栽培させてたんですよね」
NMさん「今でも差別はありますよ。前に、イスタンブールからビュユック島といういう小さな島に行った時、船に乗ろうとしたら、従業員が手で制して、乗るなと言われたんです。でも断る理由もないし、手を払いのけて乗って行ったんですよ。その後、向こうのレストランに入ってコーヒーを頼んだら、白人の従業員が二人、こっちを見て話していて、そのうちの一人がコーヒーを持ってきたんですが、ガチャンってこぼれそうな状態で置くんです。つまり、お前が来るとこじゃないという雰囲気なんですね。周りは白人ばっかりで、そこにアジアの有色人種が来たということで、従業員からは、『なんだあいつは、マナーを知らないのか』という目で見られました。強烈だなと思いましたね」
Tさん「インスタで見たんですけど、アラブのドバイで働いている人たちは、みんなパスポートを取り上げられて、奴隷化されているらしいです」
春名「ドバイも、人工的に作られた街ですからね」
Tさん「ほとんどの人が公務員で、働かなくても食べていけるそうです。だから、その話ももしかしたら本当かもって思いました」
春名「どんな差別でもそうだと思うんですが、差別されている側の中でもまた差別構造があるんですよ。アフリカの黒人でも、肌の色が本当に真っ黒な人と、ちょっと浅黒いくらいの人がいて、浅黒い人の方が真っ黒な人を差別しています。自分が差別されて嫌なはずなのに、差別されている人の中でもまた差別が起きるんです。差別されるのが辛いから、どうしても他に当たっちゃう」
NMさん「自分は違うんだって、思いたいんでしょうね」
春名「あれは本当に悲しいです」
NRさん「誰かを貶めないと、自分の位置を保てないんでしょうね」
NMさん「外国でエレベーターに乗ったとき、アジア人というだけで嫌な顔をされることも結構あります。日本人は嫌な匂いがする、と言われたこともありますね」
春名「インドに行った時も、カースト制度があるから、階級によって絶対服従みたいな雰囲気があります。例えば列に並んでいても、上の階級の人が来たら下の人たちは押しのけられても何も言えない。僕が列の後ろに並んでいて、横入りされたから注意したんですが、入られた側はただ苦笑いして終わりでした」
NMさん「私もインドに行ったとき、現地の人が田舎のほうに連れて行ってくれたんですが、ここで生まれた人はみんな奴隷になるんです、と言ってました。カースト制度は今でも生きてるんだなと思いました」
春名「昔の日本でも、士農工商があって、そのさらに下にエタとか非人と呼ばれる人たちがいて、下を見て暮らせと言われたんですよね。上を見て羨ましがっても仕方ない、という」
◆ キノの旅/郷,時雨沢恵一,黒星紅白
NRさん「小説が原作で、旅人のキノがバイクでいろんな国を旅する話なんですけど、その国々がそれぞれ極端な価値観を持っているんです。例えばある国ではすべてが採決で決められるので、山火事が起きたら消すかどうかも採決、何をするにも採決、そういう固定観念に縛られた国を次々と旅していくんです。他にも、何歳になったらこれをしなきゃいけないと決められている国も出てきます」